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winds chaser diary 5 あり得ない筈の現実と気付きもしない可能性


 寝覚めは、いつにも増して快適だった。
 ゆらゆらと木漏れ日のような光が瞼を刺激して、あぁもう朝かな、と緩やかな覚醒を促される。
 未だ残る夢の残滓は、ふわふわと穏やかで、とても温かい。やはり観ていた光景は次第に霞みに消えて行くが、確か、久しぶりに風と遊んでいた夢のような気がした。
(はうん……いい夢だったんですけど……)
 次第に浮上して行く感覚の中で軽く恨むようにそう思ったが、すぐにそれは静かな昂揚に置き換わった。
 今日は何があるかな。
 今日はどんな街に行けるかな。
 今日はどこで迷うんだろう。……迷いたくはないな。
 あぁ、そろそろ……「さくら」っていうの、咲くかな。
 見たいなぁ。 でも、「さくら」ってどんな花だろう。
 ……今日は、どんな春なのかな。どんな日なのかな。

 春を越し初夏が巡るまでは、毎日が「未経験の新しい日」であるリリシャにとって、朝が来るのは新しい未来が開けることだと強く思っている。
 知識として知った「春」は、とても楽しいことがたくさんあった。
 だからこの季節の目覚めは、待ち遠しいことなのだ。

 だが生理的な涙に揺れる視界が晴れた時、あまりの驚きで穏やかな夢想は吹き飛んでしまう。
「……う、……え? え、え、……ええええええええッ!? ちょ、ぐっ、!!?」
 あまりに急に喉をはりあげたが故に終いには呼吸を詰まらせて、本気で涙を浮かべる。げほげほと一頻りやったところで、全身の力を抜いて……転がった。
 地面に。
「ど……ど、道理で……っ」全身、奇妙に軋むと思った。

 何しろ、転がっていたのはどことも知れぬ森。毎年秋に降り積もり腐葉土となった土の上に、素のまま寝ていたのだ。
「あ……れ、でも」
 ぼんやり呟いて、のそのそと体を起こし頭に付いた枯葉を払う。
 手首を額に当てて、またぼんやりと。

「――なんで、こんな所に……?」

 こんな場所、訪れた記憶もない。 ならばまた「歪み」に巻き込まれたのかとも思ったが、それにしては全身の損傷がない。あれは相当身体に負担が掛かり、肌に裂傷が出来ていることが殆どなのだ。
 ――過去に、なかった訳でもない。
 だが、有り得ない。
「…………そ、んな。 ……昔では、……ない、のですし……」

 思い出して、腹の底から冷たさが競り上がった。
 言い聞かせなければ、過去の苦しさが全て戻ってきてしまいそうな程の冷たさで。

 そんなことには関係せず、森の朝は、静かなざわめきに包まれる。
 その何気ない雑音が障害になり、思考回路を麻痺させて行く。


 全てを振り払いたくて、リリシャは頭を両の手首で挟んで、おそるおそる笑った。 恐怖に引き攣る顔をごまかすように。
「私、は……ウェールリリシャです。……もう、風神じゃ……ありません」

 それは何故か、白々しく心に響いた。
 ――ゆるゆると頭を振り、ともすれば力の入らない身体をなんとか立て、少しずつでも歩き出す。

 ただ、自分の……「リリシャ」の、いるべき場所に帰りたくて。
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